2015年6月24日水曜日

バングラデシュの魅力的な市場環境とスラム街での社会貢献事業の視察 


MITを卒業して3週間が経過した。ボストンから地球を反時計回りしながら、7カ国周遊して日本に帰国する予定。現在滞在中のバングラデシュは、モロッコ、インドを経て、3カ国目。この国での3日間の滞在中に、首都ダッカのスタートアップやインキュベーターの共同創業者、現地コンサルティング会社の社長、現地の交通系スタートアップの共同創業者、若手日本人起業家、日本発ベンチャーの現地オフィス代表、JICAのODA担当者にお会いし、様々なトピックについてディスカッションを行い、有意義な時間を過ごすことができた。

1)バングラデシュのポテンシャル
現地で聞いた話やマクロ情報を踏まえると、一言で"バングラデシュはアツい"!!もちろん課題も多くあるが、よい面では特に以下の点が印象に残った。
  • 人口は世界で第8位の1億7千万人(2015年)
  • 2013−2018年の平均GDP成長率6.6%。中国、ナイジェリアに次いで世界第3位(出所:IMF)
  • 依然、繊維産業が輸出の8割超(ZARAやH&M等が主要な顧客)を占めるが、中国やインドの人件費高騰を背景に、IT産業など新しい輸出産業が育ってきている
  • 外資規制が他国に比べて緩く(原則、外資による100%出資可能)、比較的外資企業が参入しやすいことに加え、BOI(Board of Investment)等から様々なサポートを受けられる
  • 人なつっこい国民性。日本人との相性もよい(インド人とは仕事したくないけど、バングラデシュ人となら。。という人も多い)
  • 親日度の高さ(日本の円借款等を通じた多額のODAのおかげ。ビザも横にいた中国人はお金払ってたけど、なぜか自分は日本人ということで無料)
  • ローカル企業の経営レベルの低さ(経営ができる人材がほとんどいないので、ローカル企業も外資にある程度頼らざるをえない。従って、日本企業(外資)の視点からするとローカル企業をコントロールしやすい)
  • (現状では)インド等と比べると外資の参入が少なく、競争環境はそこまで厳しくない

ここでは割愛するが、個人的に決済ビジネス、マイクロファイナンスの自動化、渋滞解消サービスに、特に重点を置いて、彼らとディスカッションを行い、多くのヒントを得ることができた。

2)スラム街におけるNGOの社会貢献事業を学ぶフィールド・トリップ
BRAC(Bangladesh Rural Advancement Committee)という世界最大のNGOが、実はバングラデシュにあるのをご存知だろうか。12万人を超える職員を抱え、マイクロファイナンス、ヘルスサービス、教育サービスなどを提供し、巨大なコングロマリッドの形相を呈する。例えば、2014年は売上高が538百万ドル(約650億円)あり、マイクロファイナンス事業が売上の32%をしめる最大の事業となっている。BRACは、卒業式スピーチでふれたノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌスが創業したグラミン銀行と並ぶ最大規模のマイクロファイナンス機関である。こうしてあげられた収益は、株式会社が株主に還元するように、NGOとして社会貢献事業のために使われている。

自分は、半日のBRAC Visitor Programに参加し、現地でBRACが提供するサービスの恩恵を受けている人たちに話を聞くことができた。非常によい体験だったので、簡単に紹介したい。

このプログラムは、簡単な履歴書やChecklist formと呼ばれるアプリケーションフォーム(参加の目的など)を記入すれば、恐らく誰でも参加できるのではないかと思う。自分は1人で申し込んだが、自分が見たいと思う活動(リストはWebsiteから見ることができる)を具体的に指定し、それに応じてカスタマイズしたプログラムをBRACの職員が作ってくれる。自分は時間の制約で、半日のダッカ市内のスラム見学を希望したが、1日ー3日の比較的長いプログラムも組んでくれるので、希望すれば、地方の農村を訪れることもできる。費用は、アレンジするプログラムの内容によるが、Websiteによれば1人辺り$25−35なので非常に安い(自分は$25)。

今回は、ダッカの中心部より西寄りにあるMohammadpurというスラム街で、BRACが提供する教育センター(小学校に相当するもの)、出産支援を行うマタニティーセンター、マイクロファイナンスを利用する酪農家を訪問した。マイクロファイナンスは、別ポストにてふれるとして、今回は、教育センターとマタニティーセンターの様子を紹介する。

A)教育センター
BRACは、114万人の子供たちに対して、38,000の小学校を提供しており、すでに951万人の卒業生を輩出している。

自分が訪れた学び小屋には30人ほどの子供たちがいた。金曜日を除く、週6日、朝の8時から昼の1時まで学校に通う。日本でいう小学校にあたり、1−5年生まである。7−8歳で入学し、1年生分のプログラムが約9ヶ月なので、11−12歳で卒業する。卒業後は、政府が運営するセカンダリースクール(中学校)に通う。科目は、ベンガル語、英語、算数、理科、社会+もう1科目の全6科目。政府が運営する小学校の数が圧倒的に不足しており、近くに学校がない子どもたちのために、BRACが教育の機会を提供している。

BRACは1−3年生までBRAC独自の教育プログラムを提供しており、4−5年生は、政府のプログラムと同じ内容を教える。自分が会った子どもたちは3年生で、他の学年の子供達は別の建物で教育を受けている。小学校の運営コストは、土地のオーナーに対する家賃が200タカ(1タカ=約1.6円)、BRACが雇用している教師の給料が2000タカ/月となっており、それ以外に、生徒に無償で教科書や教材が提供される。

こちらが一方的に質問するだけでなく、好きなフルーツは何かとか、あなたの国の歌を歌ってほしいなど、生徒からも色々リクエストが飛んでくる。歌を歌ってほしいというリクエストがあまりに不意打ちで、パッと思いつかなかったので、君が代を歌ってしまったが、もう少し明るい歌でもよかったかなと今になって思う。子供たちは無邪気で明るく、最後にみんなで記念撮影して終了。

教育をきちんと受けてしっかり勉強すれば、よい仕事について安定した幸せな生活を送れるというメッセージを込めて、Ideal Houseという模型をつくる授業もあるようだ。スラムに住む子供たちにとって、きちんとした家を持つことは1つの夢なのだ。


歌やダンスを披露してくれる小学校の子供たち①

歌やダンスを披露してくれる小学校の子供たち②

IDEAL HOUSE (スラム街の子供たちの1つの夢)


B)マタニティーセンター
BRACでは、97,000人のヘルスケアワーカーがサービスに従事しており、2,450万人の生命維持に必須なヘルスケア支援を行っている。

地域の住民は、妊娠が発覚すると、マタニティーセンターに登録することにより、月1回の妊婦指導を受けることができる。また、つわりがひどくなったりすると、センターで休んだり、医者に診てもらうことができる。出産後に緊急の事態が発生した場合は、病院に搬送され、通常の半額の費用で治療を受けることができる。この回で、Embraceという保温器を例に、世界では毎年、1億人が産まれた日になくなり、3億人が産まれて数週間以内に亡くなっている事実を紹介した。BRACはマタニティーセンターのサービスを提供することにより、少しでも妊娠中の胎児や出産後の乳児の死亡率(Infant mortarity rate)を下げる取り組みを行っている。

Maternity Centerの入り口

助産婦による妊婦指導

分娩室


次回は、個人的に非常に勉強になったマイクロファイナンスの事例について紹介したい。



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2015年6月4日木曜日

MBA生活・ブログの総括 -2年間の学びを振り返る


いよいよ明日は卒業式。人生の次のステップに進むわくわく感と、この2年間が恋しいような不思議な気分だ。1ヶ月前にこのブログをはじめた時に、目次のようなものをつくったが、今日はそれをなぞる形で、ブログの内容をまとめ、MBA生活の学びの総括をしたいと思う。

1.MITで技術の商業化に取り組む
技術の商業化のプロセスについて、I-teams()という授業を通じて、体系的にかつ実践的に学ぶことができた。詳細をブログで語れなかったが、この春にコンピュータ・サイエンスのラボと通信技術の商業化に取り組んだ際にも、このノウハウが活きたと思う。技術という、様々な制約をかかえ、世の中のニーズと100%一致していないところから、ビジネスをスタートしたときに、どのようにマーケット(アプリケーションや地域)を選択し、一つ一つの課題を乗り越えていくべきかの肌感覚を得ることができた。世界トップの理系の大学であり、エンジニアリングとビジネスの融合をモットーとするMITだからこそ得られた貴重な経験だったと思う。

イノベーションの種が次々と生まれ、そして消えていく。研究者・開発者たちが人生をかけて取り組んだ挑戦を1つでも多く世の中に出していくこと。大学生の時に、弁理士の資格を取得したときも同じ気持ちだったが、これを長期的視点で、自分のライフワークにしていきたいと強く感じるようになった。


2.スタートアップへの支援とものづくりへの情熱を確認する
この2年間、世界中を飛び回り、スタートアップ(中国フィリピンセルビア①アフリカ日本)の経営者と議論を交わし、成長戦略や海外展開をサポートし、ビジネスにおける普遍的なアプローチとローカライズの両面の重要性を学んだ。例えば、Entrepreneurial Salesの授業で営業マネジメントを学び、セルビアのプロジェクトでは営業プロセスの構築・導入を実際に支援した。MITがモットーとする理論と実践(Mens et Manus)を通じて、学びをより深いものにすることができた。

また、"日本の企業はグローバル化に課題を抱えている"とよく言われるが、世界中の多くの企業が同じ課題で悩みながら、日々戦っていることを再認識した。

もう1点は、半導体の研究を大学・大学院と行い、金融機関では日本のものづくり企業の支援を行ってきた経験から、やはりものづくりが好きだということを改めて感じ、この2年間ものづくりへの関わりを1つのテーマとして取り組んできた。MITの100Kというビジネスコンペでファイナリストになったアイデアも、短期間お世話になった魔法のリングの会社も、ウェアラブルデバイス関連であった。

一方、ハードウェアスタートアップは、事業化のハードルも高い。少しでも成功率を高めていくためにも、先人たちの経験(初期のハードウェアスタートアップ経営者が絶対に覚えておくべき数字集)から学ぶことが重要であると痛感した。


3.様々な授業を通じて、ビジネスを俯瞰し、知的好奇心を満たす
MIT Sloanの提供する様々なプログラムを通して、知的好奇心を満たすことができた。自分はアントレプレナーシップに関連する多くの授業をとってきたが、それ以外にも複数の興味深い授業を紹介した。

システムダイナミクスを通じて、世の中の複雑な事象を因果関係のループで描き、体系的にとらえることで、事業を成功に導くための俯瞰的視点を得ることができた。また、戦略論の授業を通じて、UberやAirbnbを例にシェアリングエコノミー()などの新しいトレンドを学び、既存ビジネスとの競争、新規参入、代替サービスの脅威について紹介した。

その他、フリーミアムモデルの音楽配信サービスを通じてソーシャル・マーケティングを学び、MITの図書館の課題を通じてデザインシンキングを考え、ボストンのNPOのマーケティング上の課題に組織面からアプローチした。

ビジネスは原理原則が通じないフィールドでもあるが、こうした先人たちの知恵は、困難に直面した時に、どう次のステップを考え、乗り越えていくかを思考する際の礎となるだろう。これらの学びを何かのきっかけで思い出し、Steve Jobsが卒業式のスピーチで訴えたConnecting Dotsとなって、自分の人生の中で、線となって繋がっていくことを待ちたい。


4.リーダーシップ/コミュニケーション能力を高める
課題を通じて、様々な国籍・バックグランドの学生とガチンコ議論1000本ノックを経験し、時には落ち込み、時には達成感を感じ、自信と対応力を身につけた。英語は暗記するものと割り切り、留学する直前までほぼ話したことがない状況から、議論し合える瞬発力を身につけるところまで到達できたことが、グローバルにビジネスを行っていく自信に繋がった。

リーダーシップという日本では馴染みがない言葉も、様々な類型はあれども、実は情熱とコミットメントを示し続けることだという、1つのシンプルな自分の中の解を得ることができた。チームワークで貢献する方法については、自分の強み・弱みを把握し、誰とチームを組み、どういうチームづくりを目指すかのヒントを得ることができた。

日本を紹介するSloanの文化祭MIT Asia Business Conferenceを通して、楽しみながら、イベント運営のノウハウを学び、チームをリードし、若き日の青春を思い出すような気持ちになった。


5.MBA生が通るいばら?の道を紹介する
TOEFL・GMAT等と戦ったMBA受験シリコンバレーを楽しんだサマースクール、MBAの就職活動(日本人MBA生の就活事情レジュメやカバーレターの書き方)、夏のコンサルティング会社でのインターンMBAでの苦労・ギャップといったMBA生の多くが経験するプロセスについても、自分自身の経験を中心に紹介した。こうしたプロセスを通ることで、忍耐力・対応力がつき、一回り成長することができるだろう。MBAの受験生や、これから海外留学をする方々の少しでも参考になればと思う。


6.ボストン生活を楽しむ
ローカルビールの産地であるボストンという街の素晴らしい生活環境を楽しみ、ボーゲル塾という貴重な場を通じて、様々なバックグランドの人々と利害関係なく日本の将来を議論しあい、ネットワーキングができた。初めて日本の外で住んだ街がボストンで本当に幸運であった。この2年間のボストン生活を一生忘れることはないだろう。


ついに明日、卒業!!!

P.S. アメリカのグランド・ティトン国立公園



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2015年6月3日水曜日

営業で会社を成功に導く- アメリカと日本の営業カルチャーの違い

Entrepreneurial Salesという今学期とった授業が、非常に面白かった。

セールスの授業なので、セールステクニック的なものも教えてくれる。2人1組で営業のデモンストレーションを行い、ビデオで撮影する課題が複数あるので、アメリカ人の営業スタイルを見ることができて面白い。半分ショーみたいに大げさな人も結構いるし、顧客の前で足組んで堂々としているので、日本との違いを感じる笑。

例えば、顧客知識と営業スキルでは以下のものが挙げられる。

顧客知識
  • 誰が意思決定者なのか、あらゆる角度から会社の情報をおさえる
  • 大企業の場合、どういう人が意思決定に関わっているかをおさえる。例えば、使いやすさを重視する実際のユーザー、IT部門など技術スペックを気にする部署、購買部/財務部など製品価格を気にする部署、リスク管理部や法務部などリスクを気にする部署、外部のコンサルタントなど
  • クライアントが何を知りたいのか、Financial impact、Operational impact、Business impactの中から注意深く観察する。従って、売り込むより、クライアントの話をよく聞き、コンサルテーションすることが重要
営業スキル
  • 他社製品をけなさない(過去にその製品を使った可能性もあるため)
  • 他社製品を一度褒める(2000年代前半はすばらしい製品だったんですよね〜)
  • 顧客とのパートナーシップを強調し、共通の敵をつくれ(例えば、リテールに営業する時は、我々の製品はハイスペックで御社で扱う製品としては最適です。パートナーシップを組んで、一緒にウォールマートを倒しましょう)
  • 営業はショーだと思って、製品への深い情熱を示せ
  • 自社製品のメリット/デメリットをあらかじめ整理し、顧客からの質問に対する対応に備えよ
  • ミーティングの目的を常に意識し、契約までの最大の障壁を少しずつ取り除け
  • NOと言われたときにも諦めるな。NOの裏にある理由をサーチせよ。リカバリーするためにクライアントの誰に会うべきか、自社の誰を連れていくかを意識せよ

これらは日本で巷に溢れている営業テクニックの本を読んでも見つけられると思う。自分もベンチャー時代は、誰にも教えをこうことができないので、営業本を20冊くらい読みあさっていた笑。

この授業で最も面白かったのは、営業マネジメントだ。授業では幅広い営業のトピックを扱い、毎回、あなたならこのケースでどう対応する?と問われる。特にスタートアップは資金が限られているので、間違った経営判断が命取りになるケースがある。

例えば、1)営業の割当は、地域ごとにすべきか、クライアントごとにすべきか、2)日本の代理店が全然ノルマを達成できていない。契約を解除すべきか、そのリスクは?、3)成果が上がらない営業がいる一方で、6ヶ月以内に大幅売上増をチームのノルマとして達成しなければならない。人材の採用からトレーニングまで通常3ヶ月はかかる。この人材を解雇すべきか?、4)セールスを初年度に10人採用する。どの州に何人ずつ割り当てるべきか?その理由は?、5)現状は、電話営業のチーム(Inside Sales)のみ。外回りの営業チーム(Field Sales)をつくるべきか否か。

ケース毎の会社の業種/事業環境から、適切な戦略を考えるのだが、クラスメートの中でも意見が割れるので、非常に面白い。

この授業を通じて、アメリカの営業について印象に残った点を2点ほど紹介したい。

アメリカの営業における厳しい成果主義
アメリカの営業はハイリスク、ハイリターン型の仕事だと思う。色々なケースを読んでいると、基本給$150,000(約1,800万円)、成果給$150,000(約1,800万円)という会社がいくつも出てくる。正直、こんなにもらえるの!?って思うが、その裏には厳しい成果主義があり、成果を出せないとすぐにクビになる。特にスタートアップでは、成長フェーズ(シリーズB以降)で営業の採用を強化するので、間違った人材を多く抱え込むと、売上が上がらないけど、給与を支払わなければならない状態に陥り、資金が枯渇するリスクがあるため、徹底的な成果主義がとられている。

ただ、こうしたノルマ主義の弊害があるようで、実際のケーススタディーでも以下のようなケースを扱った。
"ある営業マンが、会社が販売を強化している新製品の営業を行わず、解雇されてしまった。すると、複数のクライアントから、彼がいないのであれば、もう取引はしないと抗議された。この営業マンは、顧客のニーズにあうもの以外は売ろうとせず、性格的にも穏やかでクライアントに好かれる人だった。あなたはこの営業マンを解雇すべきだったと思うか?"

科学的に組織されたアメリカの営業
アメリカの営業は科学的に組織されていると思う。営業を細かいプロセスに分解し(Sales Funnel)、各プロセスにおける成功/失敗の統計をとって最適化したり、自動化できる部分はどんどん自動化していく仕組みが整っている。日本でも多くの企業でセールスフォースが使われているが、アメリカはセールスフォースを中心とする営業・マーケティングのサポート・自動化ソフトのエコシステムがすごい。例えばこのスライドを見ると、顧客管理ソフト(CRM)ならInsightly、顧客へのアプローチを強化する(Lead Management)ならHubspotなど、ニーズに応じた様々なソフトウェアを見つけることができる。

卒業まであと2日!!!

P.S.  アメリカのアンテロープキャニオン、レイクパウエル、モニュメント・バレー







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2015年6月2日火曜日

魔法のリングの会社で働く

今、アメリカの国立公園内に滞在していて、Wifiや携帯の電波がない、自然との共生を楽しんでいる。昨日更新できなかったエクスキューズなのだが、気を取り直して残りの記事も書いていきたい。

Ring(社名はLogbar.Incだが、以下製品名のRingで統一する)という製品を知ったのは、2013年の秋。当時Ringが公開したYoutubeの動画がMITの中で話題になっていた。”めちゃくちゃクールだ”とか”こんなの1年でできるはずない”、と友人たちが話をしていたのを思い出す。コンセプトビデオはこちらなので、まだ製品を知らない方がいたらぜひ見てほしい。

Ringは、"Shortcut everything"をコンセプトにするウェアラブルデバイスである。指輪型のデバイスを装着し、指でジェスチャーを描くことで、電球、TV、音楽のOn/Offや、様々なアプリを起動することができる、Internet of Things(IOT)の代表的製品だ。

当時、会社に関する情報がほとんどなかったのだが、調べて見るとどうやら日本の会社らしいということがわかった。ハードウェア・スタートアップの経営に関心があったので、アーリーステージの会社が、資金調達、生産、物流、販売をどのようにやっているか学びたいと思い、会社に直接メールを送り、2週間だけ在籍させてくれないかとお願いしたところ、CEOの吉田さんから快諾いただいた。

当社はコンセプトを発表してから、7ヶ月でKickstarterキャンペーン、1年で製品販売までこぎつけた。ハードウェアのスタートアップとしては異例のスピードだと思う。

私がお邪魔したときは、ちょうど最初の製品の販売直前だったので、販売契約書などのドキュメンテーション/物流の構築/製品パッケージの検討など、ビジネス面での動きが出始めているタイミングで、非常に面白かった。先日紹介した初期のハードウェア・スタートアップ経営者が絶対に覚えておくべき数字集のセミナーに参加したのは、この会社で働いた後だったので、Ringをイメージすることで、セミナーの様々な数字がスーッと頭に入ってきた。

当社について、個人的に特に印象的だったのは、1)マーケティング戦略が非常に素晴らしく、2)ファンディングが理想的に進んでいる点だ。

マーケティングについては、ビデオマーケティングをうまく活用することで、効率的にグローバル展開している。長々としたプレゼンテーションや事業計画書より、一瞬で人を惹きつけるビデオのようなコンテンツの重要性を改めて感じた。日本のスタートアップでありながら、SXSWやCES等のアメリカの展示会を活用し、米国メディアからも注目を集めた。2015年には、CESのInnovation AwardでHonoreeも獲得している。Ringは、イベントに出展すると、必ずビデオを撮影/編集し、ウェブサイト上で公開する。マーケティングにおけるリサイクルの重要性は、セルビアのスタートアップへのコンサルティングでも少し触れたが、それを忠実に実行している会社という印象を受けた。

ファンディングは、ハードウェアスタートアップを最も苦しめるものだと思う。最近は、日本のVC投資もバブっているので、ハードウェアスタートアップに数億円という話も見なくはないが、自分の金融機関の経験を踏まえても、ハードルは高い。Ringは、今のところ、初期投資から、クラウドファンディング、VC投資まで、理想的にファンディングを進めている。初期の従業員を雇う費用は、初期投資がなければ難しかっただろうし、Kickstarterがなければ早期に大量生産までこぎつけるのは難しかっただろう。RingはKickstarterで約$88万ドル(約1億円)を調達しており、世界的に見てもハードウェアスタートアップとして、Kickstarterで最も成功した会社の1つだ。

2015年の4月に第二弾のRing Zeroを発売している。Ringの道のりもすべてが平坦だったわけではないが、日本を代表するハードウェア・スタートアップとして、今後の益々の活躍を期待したい。自分も世界をわくわくさせる製品をつくりたいと感じさせてくれる会社であった。

卒業まであと3日!!!

P.S. アメリカ・イエローストーン国立公園