1年生の秋学期に、SEID(Sloan Entrepreneurs for International Development)というMIT Sloanのクラブが提供する、途上国の企業やNPOに対してコンサルティングを行うプロジェクトに参加した。社会起業(Social Entrepreneurship)に興味があり、1年生の秋学期は必修の授業だけなのでAction learningを経験したいと思ったのが、参加動機である。
我々のチームは、アメリカ人2人とオーストリア人と自分の4人で、あるNPOがクライアントだった。当社は、携帯を通じたヘルスケアサービスプロバイダーだ。主に診療所へのアクセスが悪い農村部で、疫病がおきていないかの監視、予防接種の通知、妊婦の状況管理など、地域の診療所で働くヘルスケアワーカーと農村などに暮らす住民の健康状態に関する連絡ツールを提供している。Mobile Healthの分野は、途上国でのビジネスとして大きな盛り上がりを見せており、当社と同様のサービスを提供するNPOや会社が複数存在する。アフリカの携帯普及率は7割超と言われており、基地局などの通信インフラが脆弱であるという問題点を抱えているものの、大きなビジネスチャンスがあると考えられている。
当社は、これまでアメリカ政府や財団からの助成金をもとに無料でこのサービスを提供してきたが、サステイナブルなサービスにしていくために課金を考えており、そのプライシング戦略について、SEIDにサポートしてほしいという依頼があったものだ。
以下で、プライシング戦略策定にあたり、実際に取り組んだ内容を記載する。
Pricing Element:
まず、何に対して課金をするのか、すなわち提供するソフトウェアのどこに価値があるのかを整理した。例えば、ソフトウェアの販売に加えて、ソフトウェアのカスタマイズ、技術サポート/メンテナンス、ホスティング、トレーニング支援などがある。本件の場合、ソフトウェア自体は、オープンソースのものが世の中に出回っており、顧客価値が低い。しかし、ITリテラシーの低い途上国に実際出向き、ソフトウェアを使いこなせるように支援するフィールドサポートや顧客ごとのニーズにあわせたカスタマイズは価値が高いので、これらに課金をすべきだとなる。
Customer Segmentation:
次にカスタマーが誰なのかをクリアにしていく。現場から得られたデータを製薬会社や研究機関に有償で提供することも検討しているが、メインの顧客は、現地の病院、診療所、現地でサービスを提供するNPOなどだ。一番の課題は、このカスタマーセグメントは、イノベーターやアーリーカスタマーがあまりいないことだ。従って、当初は比較的大口の顧客に対して、彼らの細かいニーズを聞き取り、カスタマイズを加えたサービスを提供することからスタートする。そしてスケールするフェーズで、標準化されたベストプラクティスのサービスを小口の顧客も含めて提供する。
Pricing Structure:
当初は、標準タイプ、セミカスタマイズ、フルカスタマイズ版の3つの価格パッケージを設計した。技術サポートや通信のホスティングなど、それぞれのパッケージに含まれるサービスを定義することで、顧客への価値を明確化し、想定するカスタマーの例を具体的に記載する。
Pricing Level:
実際の価格は、バリューベース、マーケットベース、コストベースで決めるやり方がある。バリューベースは、顧客に提供する価値、顧客が払ってもよいと思う価値をベースに価格を決めるやり方。コストベースは、これまで及び今後見込まれる開発費やその他もろもろのコストから、価格を決めるやり方。マーケットベースは、競合の提供するサービス内容及び価格と比較して、価格を決めるやり方。
一つのやり方で決めるというよりも、コストベース<実際の価格<バリューベースを前提に、他社(マーケットベース)の価格を見ながら決めていく形だ。コストベースとバリューベースの間に実際の価格がおさまるということは、バリューベースからコストベースを差し引いた価値を、顧客と当社の間でシェアしていると言い換えることもできる。
ただ、今回の場合、このサービスを導入することで顧客にとって何かコストが下がるわけではない。またサービスの立ち上げ段階であるため、顧客が払ってもよいと思う価格(Willingness to pay)も予測しづらい。そこで、NPOの今後5年間の収益のプロジェクションモデルを作成し、今後の目指すべき形から逆算して、そこに到達するためには、1件あたりいくら課金すべきかというモデルを採用し、これとマーケットベースの価格をもとに、レンジでプライシングを提示した。
以上が、アフリカでモバイルヘルスを提供するNPO向けに行った価格戦略のプロジェクトの概要だ。途上国向けにサービスを提供するNPOが収入を得るのは簡単なことではないが、NPOで働く人々へのインタビューを通じて彼らの仕事への情熱を感じ取ると共に、こうした前線にたつ人々によって世界の不均衡が少しずつ解消されているのだと感じた。
実際には、カウンターパートであったNPOのCOOが多忙でなかなかつかまらず、基本的な情報の収集で多くの時間を費やすこととなった。こうした非効率な進め方は、日本ではあまり経験したことがなかったが、海外、特に途上国のビジネスでは頻繁に発生するので、そうした状況への耐性をつけるという意味でも印象的なプロジェクトとなった。
卒業まであと32日!!!
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